「アセビとミサイルと社長代行」 |
鎧狩刀 | 10/07/04 15:49 |
ちょっと気まぐれで、アセビ主役の小説を書く。
「アセビ君、ごみの分別やっておいて」
「は~い」
勢いよく返事はしたものの、その足取りは思い。ごみの分別は重労働だ。特に、空き缶。中身が入ったまま捨てられているものもあるし、夏場はにおいもきつい。
オレはちらりと店長を振り返り、次いで、ゆっくりと店の外に出た。冷房のきいた店内から、一気に蒸し暑い外へ。うだるような暑さとはこういうことか。もう夕方、いや、夜だというのに、一向に気温が下がる気配はない。店内では、湊店長が、レジしめ作業をしている。
俺の名前は・・・アセビ。コンビニでバイトをしている28歳の若者だ。専門学校を卒業したはいいものの、就職が決まらず、かといって遊んでいるわけにも行かず。バイトを始めたはいいが、就活をしても新卒以外は相手にされず。バイトは職歴とは見なされず。・・・この国の罠にハマっちまったぜ。自分はむしろ被害者。そう言い聞かせて、もう8年になる。
鎧狩刀 | アセビには目的があった。金をためる目的が。彼には、学生時代にあこがれていた先輩がいた。名前は布川夢子。特に親しかったわけではないが、サークルやゼミで、なにかと浮いてしまいがちだった彼を、よくフォローしてくれていた。 その彼女が、家庭の借金の事情で、風俗店に沈められているらしいのだ。耐えられなかった。引き上げるには、何百万円も必要になる。本気で彼女をサルベージするなら、コンビニのバイトなんかしている場合ではない。でも、肉体労働とかきつそうだし、、、夜のバイトとか大変そうだし、、、所詮、彼の思いはその程度ということだろうか。大義名分を掲げて、自分を正当化したい。今の自分は仮の自分。俺が本気出したら、こんなのいつでも、、、その繰り返し。負け犬根性、ダメ人間の無限ループか。 一円の得にもならないことを考えながら、帰り支度を始めようと、タイムカードを手に取るアセビ。そのとき、みなと店長の声がかかった。 「アセビ君、このあと、ちょっと時間いいかな?すぐ済むから。・・・すぐ済むと想うんだけど。なんだったら、残業漬けてもいいから」 10/07/04 16:36 |
鎧狩刀 | (え~まじかよ;ふざけんなよ!) 「・・・わかりました。何かあったんですか?オレ、売り上げなんてピンはねしてませんよ。」 不満げな表情を隠そうともせずに、アセビは手にしたタイムカードをホルダーに戻した。コルセンのバイト時間までには、まだ余裕がある。残業になるなら、話ぐらい聞いても言いか。彼はソウ想っていた。もしこのとき、湊店長の話を聞かずに済んでいたら、、、 店長に言われるままに、店の奥へと歩を進めるアセビ。案内されたのは、面接等に使う、事務所の奥の一角だった。そこに、見たことのない女が一人立っていた。 におい立つような、女。強烈なメスのオーラ。見ているだけで、体の奥が熱くなってくるようだ。体に密着したスーツは、ボディラインを包み隠さずくっきりと浮き上がらせている。くびれたウエスト。豊かなヒップ。丈の短すぎるスカートから覗く、肉感的な太股。素肌の上に直に羽織っただけのジャケット。胸の谷間には携帯電話を無造作に挟んでいる。長い黒髪とピンクのサングラスが印象的な、官能的な美女がそこにいた。 「はじめまして、アセビさん。私は、桐井社長の秘書を務めている、夜乙女紅子(やおとめ べにこ)というものです。」 吐息交じりの甘い声が、アセビの耳元でささやかれる。視界がかすみ、頭が次第にぼうっとしてくる。手足にも力が入らない。このままでは、フェロモンの海で溺れ死にしそうだ。 10/07/04 20:35 |
鎧狩刀 | 熟れたほうずきのような、赤い唇。そこから漏れる彼女の言葉は、アセビの体を火照らせた。何を言っているのか、言葉の意味を理解できない。ただただ、甘美なる内からの熱気に酔いしれるアセビ。 「君がアセビ君だね?私はオーナーの桐井だ。そこにかけてくれたまえ。」 不意に、そして唐突に、現実世界に引き戻されるアセビ。明朗快活。しかし、それでいて、どこかイラットさせるような、そんな響きの声だった。はじめてみる。この男が、オーナーの桐井鯱雄だ。 なんて趣味の悪い男だろう。アセビは第一印象でソウ想った。金色のネクタイ。金色の時計。それも、左腕だけで3つもはめている。海外の時刻でもチェックしているのだろうか。ひょっとしたら、ありえる話だ。なにせ、相当の資産家なのだから。しかし、同時に疑問も浮かんでくる。その資産家の桐井オーナーが、一介のバイトである自分に何の用があるというのだろう? 10/07/04 23:39 |
鎧狩刀 | 「まあ、楽にしてくれたまえ、アセビ君。今日は君に、折り入って相談があってきたんだ。今、わが社で開発中の、ある便利グッズのモニターになって欲しいんだ。ここではなんだから、車の方に・・・」 便利グッズのモニターだって?ますます腑に落ちない。しかし、残業手当ては魅力だ。話を聞くくらいかまわないだろう。ひょっとしたら、食事ぐらいおごってもらえるかもしれない。しかし、問題は時間だ。余り遅くなると、コルセンのバイトに間に合わなくなる恐れがある。 車に乗り込む3人。紅子が運転するようだ。桐井社長が、妙に親しげに、後部座席のアセビの隣に乗り込む。携帯を開き、時間を気にするアセビに、桐井は、こともなげにこう言い放った。 「アセビ君、コールセンターのことは気にしなくいい。すでに、退職処理を済ませてある。」 「ええええ!?(そんな勝手な;)」 「これから君に依頼する仕事は、時給で900円だ。コルセンよりいいだろう?」 しばしの逡巡の後、意を決して口を開くアセビ。 「し、社長。930円ではダメですか。(3割り増しだ!)」 「いいだろう。時給930円でお願いするよ。夜乙女君、あとで処理を頼むよ。」 ハンドルを握りながら、無言でうなづく紅子。ピンク色のレンズの奥で、瞳がわずかに動く。 違和感。何だ、この違和感は。何かがおかしい。しかし、930円という額が通ったことで、アセビはその違和感を押しやってしまった。微妙な空気を孕んだまま、夜の街を走り抜ける一台の車。しだいに、人気のないほうへと向かっていく。 10/07/07 18:34 |
鎧狩刀 | 「あ、あの、社長・・・」 「アセビ君。便利グッズとはこれだよ。」 アセビの言葉を遮り、アタッシュケースのようなものを取り出す桐井社長。無造作にアセビの膝の上に載せる。 「中に、この後の指示や取り扱いのことが書いた紙が入っている。あとで読んでおいてくれたまえ。私はちょっと、電話をかけてくる。」 車が止まり、外へと出て行く桐井社長。秘書の紅子も一緒に出て行く。そして、いつの間に用意したのだろうか、すでに待機していたもう一台の車の中へと消えていく。2人が乗り込むや否や、間髪いれずに走り出し、あっという間に視界から消えてしまった。 「あ、あれ?」 車内に一人残されたアセビ。今自分がどういう状況に置かれているのか、いまさらになって気がつくアセビ。 「ちょ、ま、おまえ、なにこれ!?」 ドアが開かない。窓も開かない。閉じ込められた。なんてこった! ダメだ、完全に閉じ込められた。エンジンもキーが抜かれている。しばし、パニクッたアセビだが、気を取り直し、先ほど渡されたアタッシュケースを明けてみることにした。何かのドッキリとか、手の込んだ悪戯の可能性だってある。 左右の留め金を両手で外す。カチッと言う音とともに、指先に痛みが走る。針!?同時にケースが半開きになり、中から紙切れがひらりと飛び出してくる。とっさに、紙切れを掴むアセビ。血のにじんだ親指でしっかりと紙切れを掴む。 「なんだこれ。」 10/07/07 18:52 |
件名 | 名前 | |
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今日もアセビは、詭弁を並べて自分をごまかし、無為な一日を終えようとしていた。そそくさと、帰り支度を始めるアセビ。実は彼は、店長には内緒で、ダブルワークをしていた。このあとは、コールセンターでの仕事が待ってる。コンビにの時給は690円。コールセンターは800円だった。 10/07/04 16:21